高校生日記
―アウル・ニーダ編―
僕の名前はアウル・ニーダ。
県立西蘭高校に通う1年生。
なんか、よく分かんないんだけど、入学と同時に幼馴染のスティングに
生徒会に誘われて、「生徒会室ならラジコンやり放題」とか、
「生徒会に入れば学校に隠れてバイトし放題」とか言うから、他にやりたいこととか
なかったし、何となく今は生徒会副会長ってのをやってる。
とは言ってもうちの生徒会っていうのは実際はほとんど機能してなくて、
明らかに僕らとは同世代じゃない『地球連合』ってグループの頭やってる人達が
うちの学校を牛耳ってる。
けど、これがどっか抜けてる不良で、喧嘩とか非行とかそういうのはあんまりしない。
ルックスがあからさまに不良っぽいから周囲の学校の奴等からは結構ビビられてる
みたいだけど、意外と優しい。
それに、僕の愛機「神風特攻―SAKURA―」を見てカッコイイって褒めてくれたし。
僕のラジコン見て、あんな風に褒めてくれた人って初めてだったし、
見た目もかなりカッコイイし、だからオルガって先輩は結構好き。
けど、こういうこと言うとスティングが怒るから、面倒臭いし黙ってる。
それに、最近はスティングの方がどうも怪しいんだ。
「零進高校ォ?」
「そうだ、隣町の。お前も知ってるだろう?」
それは、今から丁度1週間くらい前の放課後のことだった。
何時ものように、生徒会室には僕とスティングの2人きりで、
学内にも残っている生徒の数は疎らだった。
もともと部活も委員会も盛んな学校でもなかったし、HRの終了と同時に、
家に帰ってしまう生徒がほとんどなのだ。
そんな中、僕は毎日生徒会室に残ってはスティングのお相手をしていた訳なんだけど。
「何で、僕達が零進高校なんかに行かなきゃなんないんだよ」
「別に俺達で、とは言っていない。ただ、俺が1週間ほど偵察してくるから、
後をお前に頼みたいっていう相談をしていただけなんだが」
1週間?1週間って……
「スティングは、1週間も僕とエッチしなくて平気なのかよ?!」
「そ、そういうことはあまり大きな声で……」
「だって、いつもしようって言ってくるのはそっちのクセに!僕を放ったらかしにして、
それで1週間もって、どんなに大事な用事なんだよ……ッ?」
「……コレだ」
そう言って、スティングが差し出したのは1枚の写真だった。
横顔でよくは分からないけれど、制服からして確かに零進高校の生徒だった。
黒い髪に、真っ白な肌、紅い瞳がよく目立って……まるで女の子みたいな顔立ちだ。
「コレが、何?」
「なかなかの美人だろう?こないだの地区内合同会議で零進高校のところの副会長に
くっついて来ていた生徒だ。シン・アスカ。お前と同じ1年生だってよ」
「だからそれが、どうしたんだよ」
確かに、美人っていうか綺麗っていうか何かの芸術品……みたいなルックスしてるけど、
それをスティングの口から聞いたら、なんかムカつく。
僕のこと、毎日のように……てかエッチのたびに可愛いとか何とか言ってるけど、
僕以外の男でも、そういうこと思ったりするんだ。
そう思ったら、無性にムカついて来た……。
「イジメ甲斐、ありそうだろ?だから直接行って、色々調べてくるんだよ」
「はぁ?何でスティングがそんなこと……ッ」
「いいから、留守中……学校のこと頼んだぜ?」
おデコに……チューされた。
って、やっぱりエッチなしかよあの野郎……。
へっ、まぁ別にいいけど。1週間くらいスティングがいなくたって生徒会室使い放題だし。
ラジコンし放題だし……。
けど、なんか虚しい……。
それから、3日くらい経った頃。
スティングのいない生徒会室に行くのは何となく億劫で、とりあえずバイトにだけは
毎日真面目に出ておいた。それで、冬休みまでにバイト代溜めて新しいラジコン買ったら
少しは憂さも晴れるかって思ったわけ。
「いらっしゃ……アレ?」
そうして、いつもと同じ様に接客に精を出していたら、どこか見慣れた客が店内へと入って来た。
そうだ、コイツ……たしか、
「シン・アスカ!」
「……シン?」
思い出した。シン・アスカと一緒に写真に写ってた奴だ。
金パツ、ロン毛に青い目。間違いない。たしか、零進の副会長とか言ってたっけ。
「レイ・ザ・バレルだ!」
「……そうだが、俺に何か用か?アウル・ニーダ」
「!」
こ、コイツ……なんで僕の名前を……
「名札に書いてある」
「あ、そっかぁ忘れてた!……って、えぇッ?」
こ、コイツ……エスパーか?僕の考えてることが筒抜け?
「お前の考えそうなことくらい、すぐに分かる。それより……」
レイ・ザ・バレルは、冷めたような表情で静かにカウンターへとやって来て、
急に真面目な顔で、
「母を求めて三千回シリーズのVHS第1巻が絶版になったと聞いたんだがレンタルだとまだ
入手可能なのか?この店にあるなら買い取らせて欲しい。定価の10倍は出す……」
「はァ?」
『母を求めて三千回』って……それ、思いっきり成人指定のAVじゃんか。
しかも定価の10倍って、コイツ頭イカれてるんじゃないのか?
「そういうご相談には、対応しかねま……」
「なら20倍、否……30倍は出すぞ。半分はお前のポケットマネーにすればいい。
そうすればここのバイト代の1ヶ月分以上にはなるんじゃないのか?」
バイト代1ヶ月分……そしたら、僕がずっと欲しいと思ってたサクラMAXがこの手に……。
「わ、分かりました!売ります!お売りします!!」
「話の通じる相手で助かった。感謝する」
こうして僕は、レイ・ザ・バレルと知り合いになった。
「ふぅん、ここが零進高校か」
案外大したことないじゃん。私立の割りにさ。
って言っても僕の学校より数段設備とか凄そうなんだけどさ。
昨日知り合ったレイ・ザ・バレルって副会長がまた何かいいネタを仕入れたら連絡が欲しい
と言って名刺を置いていった。
高校生の分際で、名刺なんて持ってるっていうのも、なんか生意気な感じするけど、
その辺の大人よりよっぽど頭良さそうだったしよっぽど金持ってそうだったから、
良しとするか。
それより、これでスティングが潜入してる零進高校に辿り着けた訳だから、
あの金パツには感謝しなきゃだな。
零進高校って、名前くらいは聞いたことあったけど、どこにあるか全然知らなかったし。
案外近かったんだな。そういえばあの制服駅前とかで見かけたことある。
「だから、先輩が福引なんてそんな胡散臭い話、誰が信じるってんですか?」
その時、運命の女神?か何かとりあえずそういう奴は、僕に微笑んだ。
探してた張本人に到着早々ご対面できるとは。
「シン・アスカ!お前……シン・アスカだな!」
黒髪、紅い瞳、色白の肌に生意気そうな表情。間違いない。
生で見たら、一層美人だ……。
「はァ?誰だよお前。どこの小学生?ここ、高等学校だけど、分かる?
ってか、何で俺の名前知ってんの?」
学生鞄を肩に担いだシン・アスカは面倒臭そうに僕の方を見て、
ちょっと馬鹿にしたように鼻で笑った。
じ、自分だって中学生みたいな顔して大きい制服の袖捲くってるクセして、
僕が小学生だって?ふざけんな……!
「僕は、アウル・ニーダ!西蘭高校の生徒会副会長様だ!お前、スティングを
どこに隠したんだよ!早く、返せ!」
「西蘭高校?隣町からわざわざ何の用だよ。ってか、生徒会役員なら俺じゃなくて
先輩の知り合いじゃないんですか?」
「あぁ、そうだな。確かに顔見知りではあるが」
隣に立っていたのは、昨日うちの店に来た、
「レイ・ザ・バレル」
その人だった。
さては、コイツもグルでスティングを隠して、こうして遥々やってきた僕を
笑ってやろうって魂胆だな。
「おい、シン・アスカ。スティングを返せ。まさか、もうエッチしたんじゃないだろうな?」
「はァ?何言ってんだよ。いい加減に……」
「アウル!」
その時、耳慣れた声と、見慣れた姿が、僕の目の前に飛び込んで来た。
「スティング……」
僕は、その見慣れた相手に思い切り飛び付いて、抱き付いて、
その後のことはよく覚えていない。
気が付いたら、いつもの生徒会室に戻って来ていた。
「まさか、俺を追って来たのか?一人で……良く来れたな」
「レイ・ザ・バレルに、名刺貰ったから」
「副会長に?まぁ、あまり深くは聞かないが……無理はするなよ、心配する」
スティングは、口調こそ怒っていたものの抱き締める腕のぬくもりが、
スティングが本当に心配してくれていたのだと、伝えてくれる。
「だって、僕のこと放ったらかしにして、シンなんて奴と浮気するから」
「浮気?そんなことする訳ないだろ、俺はお前以外の輩には興味ねぇよ」
「でもッ、こないだシン・アスカが美人だって」
「そりゃ、一般的な話だろ?だから、良い金づるになるって話だ」
「はい?」
「スティング、アウル。いらっしゃい。部室寄って行く?
今ね、ミーアが持って来たクッキー食べてるの。スティング、アウル
クッキー好き?チョコレートもあるの、食べる?」
「いいや、今日はいい。コレをアルスター部長に渡しておいてくれないか?」
「部長に?わたすの?」
「そう、ステラは良い子だから、出来るよな?」
「うん、ステラ出来るよ。部長にわたす。またね、スティング、アウル」
「で、あの中身結局何だったの?」
「シン・アスカの写真とそいつについての情報。お前が乱入した所為で
あんまり調べられなかったがな」
スティングが、4日間にも渡る潜入で、手にして帰ってきたのは、
数十枚の写真と、MO数枚の情報だった。
どうやら、アイドル部部長のフレイ・アルスターに内密に頼まれごとを受けていたらしい。
「たったアレだけの資料がかなりの金になるらしい。まだ、お前にはバラしたく
なかったんだがな、もうすぐクリスマスだろ?
金が入ればお前へのクリスマスプレゼントに、好きなラジコン買ってやれるだろ?」
「スティング……ッ」
それで、シン・アスカなんて奴に興味持ってたのか。
そうだよな、僕のスティングが浮気なんてするはずないし。
「ラジコン、楽しみにしてるよ」
「現金な奴だな」
結局、スティングが集めた資料はミネルヴァ女学院の写真部や漫画研究部に売り捌かれたらしい。
うちのアイドル部部長は、純粋な部活以外にもそうして目ぼしい人材を見つけては
情報を売って金に換えているらしい。尤も、稼いだ金は全てまたアイドル部の活動費に
充てられるらしいんだけど。
それで、シン・アスカって奴の知らないところで、シン・アスカが主人公になった、
同人誌ってヤツが作られてるらしい。何か、僕とスティングみたいに男同士でエッチしてるの、
そういうのが女の子達にはウケるらしい。良く分かんないけど。
シン・アスカは、連れのレイ・ザ・バレルって奴が美形だったのも相俟って、
その世界ではかなり売れっ子になって、スティングの集めた資料はかなりの金に化けた。
僕はその金で、ずっと欲しかったサクラMAXをなんと50分の1スケールでゲットすることが出来たし、
その同人誌ってやつをよんだスティングが「俺達も負けてられない」とか言い出して、
エッチの時に頑張ってくれちゃうようになって、僕としてはまぁ、結果オーライかな。
それにしても、スティングが張り切っちゃうような、同人誌ってやつ。
僕も見てみたい気がするけど。
「へっ……くしゅ、ン……ん、はぁ。風邪引いたかな。……ところで先輩、何読んでるんですか?」
「……お前は知らない方がいい」
「どういう意味……って、その表紙のすごい格好してるヤツ、めちゃくちゃ俺に似てません?」
「……気の所為だろう。お前も可笑しなことを言い出すな」
「って、ならなんで隠すんですか。それにその変な道具持ってる金髪、めちゃくちゃ先輩に
そっくりじゃないですか。ちょっと先輩……俺にも見せて下さいよ!」
「シン、時には知らない方が良い事実もある」
「何言ってんですか!早くそれ、寄越して下さい!」